隊長と俺
〜その5・アンタがそばにいて欲しい〜


 

さて、自宅の畑仕事担当になったシン君。
毎日丹精して育てているだけあって、苗も順調に育ってきています…




「吹き飛ばぁ〜されてもぉ〜人はまたぁ…花〜を植えるぅ〜♪っと」


『座右の銘』に勝手にメロディをつけて、鼻歌まじりに作業中のシン君。

ORB一のニート…いえ、多くの人々から『宇宙最強の男』とまで呼ばれている、ORBのヤマト准将の一言が、よっぽど心に響いているようです。




(ふぅ…物作りって、結構楽しいもんだよなぁ…あ、そうだ、荷物を整理してたら、こんなモノが出てきたんだっけ…)


一仕事終えたシン君が、ベッドルームの壁に飾ったものは、やたらと大きなアスランさんのポスターでした。


(よく見たらこれ、赤パイスーのアスランさんなんだな。そういや、FAITHになる前、ちょっとだけ赤パイスーで出撃したこともあったっけ、アスランさん…しかし、誰が撮ったんだ、こんな写真?アスランさんって、こーゆーことが大ッ嫌いなはずだけどな…どうせ、ルナ辺りが勢いで撮ったんだろうなぁ)




(一番最初にアスランさんに会ったときは、オレ、「何だよコイツ、アスハのバカ娘といつも一緒にいやがって」って思ってたんだよ。だけど、もしかしたらそれって、嫉妬だったのかな。オレがいつもあの人に突っかかってたのも、裏切り者呼ばわりしたのも、あの人のこと、気になってたからなのかな…何度もぶっ飛ばされて、怒られて、最後は、逃げられちまった…今は、理由もわかるけどさ…)


しばらくの間、じっとポスターを眺めていたシン君でしたが、いつの間にか心の奥に何とも言えない感情がわき起こってきたようで…


(俺も、わかんなかったんだよ。とにかく、何もかも憎かったんだ。あの人の言ってることがわからなかった。もっと考えれば良かったんだろうけど、とにかくあの時は、オレにとっては何もかもが敵だったんだ。だけど、最後の最後で、あの人が『バカヤロー!』って言ってくれたの、今にして思えば、嬉しかった…全てが終わって、あの人にサルベージされた後、オレ、絶対にまた殴られると思ってた。オレのこと、憎んでいると思ってたのに…)







「シン!この、死に損ないのバカ野郎がぁっ!!」

「……………」

「お前は、正真正銘のバカだ。俺もそうだが、お前は俺以上の大バカ野郎だ…最後まで……………苦労させやがって…」

「…アスラ…ン……………さん?」

「もう、俺はどこへも行かない。お前を先に死なせるか……うぅっ………よく………生き残ったな、シン……うっ……」

「アスラン……さん………アスランさん!オレは…」







(アスランさん、オレを抱きしめて、泣いてたよな…アスランさんの身体、逞しくて、あったかかった。二人ともパイスー着てるのに、オレにはよくわかったんだ…あれが、人の温もりって、言うのかな…って、ヤベ…何でオレ、あの時のこと考えてたら…)


急激な身体の変化にとまどうシン君。


(な、何だよ…何で、大きくなるんだよ…くそっ…でも、オレ…あの人なら…キラさんは、憧れの人だけど、あの人は…もっと、オレの近くにいてくれて…もっと…オレを…)


とまどっていても、やはり、本能に逆らうことはできません…



「あ、アスラン…さん…オレ、アンタが…アンタが…あっ…あぁっ、出る…アンタのこと考えて…たら…こんなになって…気持ち、いい…うぁっ…も、もう…イクぅっ!!」


これも、一種の『種がはじけた状態』と言えるかもしれません。




(はぁ…何やってんだろ、オレ?…でも、仕方ないよ。オレだって男だもん)

ちょっと結論が突飛なようにも思えますが、出すものを出して少し落ち着いたシン君。

デスクの上に、まだ使ったことのない怪しい電化製品があることに気づいたのですが…




(そういやこれ、誰かが引越祝いとか言って、くれたんだっけ…バーチャルシアターなんだよなぁ…何が映るんだろう?)


興味津々で装置を着けてみたシン君でしたが、目の前に大きく映し出されたものを見て、思わず驚きの声を上げるのでした。


「これは…デスティニーのコクピットじゃねぇかよ!!」




「く、クソッ!!止めろ、止めろぉっ!!…アンタは敵じゃねぇよ!!オレを、オレを撃つなぁっ!バカヤロー!!アンタが撃ってきたら、オレは、オレは…アンタを撃たなきゃイケナイだろうがぁっ…」


どうやら、シン君の目の前では、実際に彼が経験した場面が映し出されているようで…


「……もう、イヤだよ……オレは、死にたくねぇ…でも、でも、アンタも殺したくねぇんだよ…アンタを殺したら、オレ、どうすればいいんだよ……アスランさんっ!!!」





「はぁ、はぁ、はぁっ…ち、チキショー…誰だよ、こんなモノをくれたのは?……アスランさん…アスランさん…オレ、死にたくないよ。もう、イヤだよ…アンタがいてくれないと、ヤダよ…一人は…もう…いやだ………うっ…うぁっ…うあぁぁぁっ!!」


バーチャルシアターの映像がよほど衝撃的だったのか、シン君はその場に崩れ落ち、時の経つのも忘れて泣き叫ぶのでした…




(ふぅ…相変わらずの仕事で、今日も疲れたなぁ…しかし、シンの前では疲れた顔を見せるわけにもいかんし、辛いところだ…)


毎度毎度の仕事を終えてご帰宅のアスランさんでしたが、いつもならシン君が取っておいてくれる新聞の朝刊と日刊雑誌が、夕方になっても玄関先に放り出されているのに気がつきました。


(何だ?シンのヤツ…畑仕事に精を出しすぎて、昼寝でもしているのか?)


ブツブツと文句を言いながらも、アスランさんが新聞を持って家の中へ入ろうとすると…


「アスランさん!アスランさん!!」

「な、何だ?どうした?」




「アスランさん、アスランさん……」

「だから、どうしたんだ?何かあったのか?」

「アスランさん……んっ……んっ……」

「おい、シン?だから、どう…したと…んっ……んんっ!?」

「…んくっ…じゅっ………んあっ、はぁっ…アスランさん…」

「お、お前…いきなり、何を…何をした!?今、俺に何をした!?俺にキスしたんだぞ!?いったいどうしたんだおいっ!?」

「アスランさん…」

「いや、だから…アスランさんってのはもう、わかったから…というか、俺はここにいるから。いったいどうしたのか言ってみろ。泣いていたのか?瞳だけではなく、白目まで真っ赤だぞ」

「アスランさん…死んじゃイヤだ」

「はぁ!?万に一つ交通事故にでも遭わん限り、おれは死なんぞ?こんな時代に?」

「オレ、アンタがそばにいてくれて、よかった…」

「そ、そうか…まぁ、そう思ってくれるなら、結構だが…と、とにかく家の中に、入ろう。な?人目もあるし。お前のその格好も、目の毒…いや、そうじゃない、ちょっと外に出るのはどうかと思うぞ?」

「うん…」


不慣れなのか、どこかまだわだかまりが残っているのか、どうにもぎこちない二人ではあります…もっとも、二人の性別を考えると、ぎこちなさも何もあったものではありませんが。




※※※




「シン君が、今日バーチャルシアターを見たみたいだね」

「なぜそんなことが判るんだ、キラ?」

「あ、僕が『引越祝いだよ』って贈ったんだけど、小型の発信器が付いてるんだ。昼間に再生されたってことは、再生したのがアスランじゃないってのはわかるしね。彼、仕事してるし。そうなれば、シン君しかいないでしょ」

「お前…何を目的にそんなことしてるんだ?だいたい、あのバーチャルシアターってのは、そんなに面白いものなのか?」

「そりゃぁもう…実は、あの装置は僕のPCからの遠隔操作で映像をストリーミングさせられるんだけど、何たってインフィニとデスティニーの最終決戦を、デスティニーのコクピット側から撮した記録映像を送信したんだもの。これって、シン君にとっては最高のノンフィクションビデオでしょ。フフフ…」

「何だってぇっ!?お前、そんなものを赤目君が見たら…いや、確かにな、さっきミリアリアから電話があったんだが、『たまたまアスランの家の前を通りかかったら、丁度アスランが帰ってきた所だったんだけど、赤目君がいきなり中から飛び出してきて、泣きながらアスランにキスしてた』とか言ってたぞ?いいのか?」

「まだまだ…彼らには、もっと盛り上がってもらわなくちゃ。盛り上がって盛り上がって…最後は…フフフフ…」

「キラ…何だか、目がいっちゃった感じがするぞ?大丈夫か?邸にばかり籠もってないで、少しは動けよ…」





いったい、何をお考えになっているのでしょうか、キラさん…

 

CASTER, 2006


←←「sim」表紙へ戻る←ひとつ前へ戻る次へ→