隊長と俺
〜その1・アンタはオレに似ている〜


 

これからお送りするのは、何度にも渡る大戦を経て、ようやく平和の戻った世界の片隅にある
名もなき街で繰り広げられる、戦士たちの物語です…




ZAFT軍本部とORB軍本部の共同所有となっている、職員住宅。
広大な敷地に3LDKの平屋建てという、公務員住宅(?)としてはリッチな部類に入るでしょう。もちろん、単身者向けではありません。

そしてこの度、この住宅に転居してくることになったのは…




「男二人が同居するには、ちょっと広すぎるような気もするが…まぁ、余裕があるに超したことはないからな。よろしく頼むぞ。シン」

「うぃっす、アスランさん」

「あぁ。ホントに、よろしくな…」


かつての戦争では上官と部下から敵同士までという、ずいぶんと波乱に満ちた人間関係を経てきた元エースパイロットのお二人…アスランさんとシン君。

何の因果か、この街で同居生活を営むことになったようです。




「それでだな、シン…お前の場合は、ZAFTとしても、ORBとしても、まぁ色々と複雑な組織の事情というモノがあって、もうしばらくの間は自宅待機ということになっているわけだよ」

「うぃっす」

「本当なら、お前も戦争戦争で明け暮れていた頃のことは忘れて、のんびり一人で…いや、もしかしたらお前にもイイ人がいるのかもしれんが…いずれにしても、これもまた組織の複雑な事情で申し訳ないが、単独行動は取らせられないから、俺が一緒に住んで面倒を見てやるからな」

「うぃっす。てか、さすがにイイ人ってのはいないッすよ」

「そうか…まぁ、いい。この際だからのんびり身体を休ませるんだな。謹慎だとか、そういうマイナス要因で自宅待機というわけではないのだから…お前だって、色々と辛かったろう?」

「えぇ、まぁ…でも、隊長…じゃないや、アスランさん?」

「何だ?」




「オレが自宅待機ってのはわかるんですけど、アスランさんは…相変わらず仕事仕事なんですか?」

「うん。まぁ…俺の場合は、仕事が生き甲斐みたいなものだから。別に俺は、これでいいと思っているさ。複雑怪奇な人間関係に翻弄されても、それも仕事のうちと割り切れば…いや、もう…たくさんさ…」

「それって、オレの面倒を見るのも、仕事のウチってことですか?」

「い、いや、そういう意味ではないさ…少なくともお前の面倒を見るのは、俺としては、個人的な思い入れ…いや、何でもない。お前は何も考えずに、ゆっくり羽根を伸ばしなさい」

「うぃっす…それじゃ、アスランさんの分もしっかり遊ぶッす」

「あ、あぁ。それで結構だよ…はぁ…」




(まぁ、俺も「シンの面倒を見るのは俺に任せてくれないか」とか言ってはみたんだけどなぁ…失敗したかなぁ…本当は、もっとこぢんまりした住まいでいいから、平和になったのだから、キラと二人で…)




「すぐにご飯にするから、もうちょっと待っててね、アスラン?」

「あぁ」

「フフフ…どうしたの?テーブルの上になんか座ったりして、子供みたいだね」

「うん。その…何だ…キラ?」

「何?」




「その…要するにだな…メシより先にお前を食べたいとか言ったら、やっぱり…種割れの刑か?」

「何それ、『種割れの刑』って?」

「あ、あはは…何でもないさ」

「フフフ…アスランって、昔も今も全然変わんないね」

「そ、そうか?」

「食べたいんだったら、さっさと食べちゃえばいいのに…」

「い、いや…その…」

「僕は、アスランのもの…だよ?」

「キ、キラぁっ…!」





「もしもし…隊長…じゃねぇや、アスランさん…アスランさん!?」




「な、何だ!?…シンか…?」

「何が『シンか?』ですかっての。本部からお迎えが来てますよ。妄想電波を飛ばしてる場合じゃないですよ」

「だ、誰が妄想電波なんぞ…」

「何言ってるんですか。どうせ、目の前にいるのがオレじゃなくて、キラさんだったら幸せなのにとか考えてたんでしょ?っていうか、うつろな目がそう語ってました」

「な、何を言うか…そ、それじゃ、さっさと仕事に、い、行ってくるからな。しっかり留守番を頼むぞ」

「はいはい。行ってらっしゃーい」
(つーか、オレだってさぁ…)




(まぁ、オレも「面倒を見てもらうならアスランさんがいいっす」とか言ってはみたんだけどなぁ…失敗したかなぁ…本当は、もっとこぢんまりした住まいでいいから、平和になったんだから、キラさんと二人で…)




「キラさん!!」

「は…はい!?っていうか、何?」

「アナタは、独り善がりでアナタを敵として倒そうとしていたオレにでも、『一緒に戦おう』って言ってくれましたねっ!?」

「うん…だって、君は悪くないもの。君は、きっと世界を変えられる人だと思うし…」

「オレ、最初にそう言われた時は泣いちまって、ロクな返事ができませんでしたけど、今、ちゃんと言わせてください…」

「うん…」

「この指輪を…受け取ってください!」

「…はい?」

「キラさん…オレと一緒に、二人で人生も戦ってください!」

「えと…それは…要するに…」

「はいっ!オレと結婚してください!!」

「あ…う、うん………えっ!?」

「よっしゃぁっ!キラさんゲットぉ!!てか、これでオレの方が正真正銘、『あの』アスラン・ザラに勝ったぁっ!!!」




「以前のインパルスとフリーダムの戦闘に負けただけじゃなくて、今度はシン君の勢いに負けちゃったね、僕は…」

「すんません。キラさん…何だか、アナタの気持ちもちゃんと聞かないウチに」

「うぅん。いいんだよ。僕も…何だか、君とはいつか、敵味方を超えた結ばれ方をする運命になるんじゃないかなと、思っていたから」

「キラさん…」

「フフフ…それにしてもシン君、元気だね…ゴチャゴチャ喋ってると、怒られそうだね。シン君のここに…爆発しそうに大きくなってるじゃない」

「あぁっ…き、キラさん…そこ、触っちゃダメ…」

「どうして?僕たちの関係ってのはもう、ダメとかナイショとかってのは無しでしょ?ね、最初は僕の口で慰めてあげよっか?出しちゃってもいいよ。シン君のなら、飲んであげる…だって、僕の旦那さんだもんね」

「そ、そんな…う、嬉しいんですけど、ホ、ホントにオレ、いきなり爆発しそう…っす…」





「おい、シン…シンよ!?」




「は、はいっ!…って、何だ、アスランさんか」

「何だとは何だよ…急にボーッとしだしたかと思ったらニヤニヤ笑いやがって、心配してみればこれか…お前が、何か妙な電波を発信していたような気がするんだがなぁ?」

「何言ってるんですかアスランさん。気のせいッすよ、気のせい。それじゃ、気をつけて行ってらっしゃーい」

「あぁ…」
(まったく…だいたい考えていることはわかるんだがな。俺と一緒か、コイツも…要注意だな)








「…で、あの二人は上手く行きそうなのか、キラ?」

「うん、あの二人なら絶対平気だよ。だって、僕らでシン君の処遇をどうするか考えてる時に、二人からほぼ同時に『一緒にいるならアスランさんがいい』『シンは任せろ』って、言ってきたじゃない」

「そりゃそうだけど…お前個人としてはどうなんだよ?」

「僕?僕は…まぁ、せっかくゴタゴタに片が付いたんだから、しばらくは一人でのんびりしたいなぁ、みたいな。そんなわけで、後はよろしくね、カガリ」

「ん?何が『そんなわけで』なんだ?」

「だってさぁ、形だけでも何でもいいから、さっさとアスランとくっついちゃえばよかったのに、結婚問題でゴタゴタして僕が人さらいの真似事までやらされたのが、そもそもの始まりなんだからね?あの時は、家にやりたいゲームが山のように積まれていたのにさぁ。それに、せっかく母さんとラクスが働いてくれてたおかげで、楽な生活を送れていたのに…っていうか、結局はカガリのせいなんだからね?僕の面倒は、これからちゃんと見てよ?」

「お、おい、ORB准将のお前が、何という発言…単なるニートだろうが、それじゃ!?というか、私が悪いのか!?そうなのか!?」




これからお送りするのは、何度にも渡る大戦を経て、ようやく平和の戻った世界の片隅にある
名もなき街で繰り広げられる、年季の入ったホモとニートとホモ予備軍戦士たちの物語です…

 

CASTER, 2006


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